言の葉の
新宿御苑は新海誠監督『言の葉の庭』の舞台としても有名です。この写真は秋月くんと雪野さんが初めて出会った東屋。
ぼくが立ち寄る度にいつも誰かがいるので、これまで写真を撮る機会がありませんでしたが、なぜかこの日は幸いにして人影が無く、こうして写真に収めることができました。
同じ東屋から眺めた景色。
この後ぼくはここに腰を下ろして、自分の書いた論文をしばらくの間チェックしていました。誰一人この東屋に足を踏み入れる者はいませんでした。いてもよかったんですけどね。
新宿御苑の入り口を抜けた途端、目に飛び込んできたのはモミジの赤。焼かれた鉄よりも赤く、キャンプファイヤーの炎よりも魅惑的で、また唇よりも瑞々しい。赤ん坊の掌みたいに小さなモミジの葉がそぼ濡れた地面に散り敷かれてもいました。傍では黄葉も盛りで、且つ常緑樹も曇天を覆っています。
この光景を写真に「移す」ことはできないと、思いました。その「移動」の過程で、たくさんのかけがえのないものが失われてしまう。ぼくの感嘆は伝わらない。この地上を絶する美を「移す」ことは叶わない。
それに――。
雨に濡れたアスファルトの匂い、風に葉の擦れる音、肌を刺す寒気、都会の喧騒が突然途絶えた戸惑い。このいずれを欠いても眼前の美は成り立ちません。
今日は写真を撮るまいと誓い、散策している内に、言の葉の東屋に人がいないのを見つけ……つい、この通り、写真を撮ってしまったのでした。弱さですね。